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【inv33】『不毛の地に』
『不毛の大地に』
(2014/10/18)
「畜生、領地を越えたらこれかよ!!」
 打撃攻撃を主とするザザにとって植物系の敵は相性が悪い。茎は細く良くしなり、花の部分も軽い。一部を殴り飛ばしてもそれで戦闘不能になるわけでもなく、下手をすれば触手の一、二本を生贄に差し出してこちらの身を削ってくる。
「フッ」
 小さく息を吐いて一閃。ザザを盾にして忍び寄り、地面すれすれに銀弧を描く。一方でアインの持つ鎌は元より植物を刈るためのシロモノだ。相性はかなり良い。攻防を明確にして二人は周囲の植物を駆逐し続ける。
 しばらくして、ようやく付近の植物を一掃し、潜んでいたコアを撃破した二人は人心地つくことができた。
「助かった」
「お互い様」
 アインとて全方位からの攻撃を捌き切れる自信は無い。特にホウセンカの種弾幕などは一発でも喰らえば致命的だ。それを防ぐ盾があるというだけでそのアドバンテージは計り知れない。
「にしても、どうだ?」
「……どう、と言われても。思いつかない。
 今までの情報を開示して、いっそ他に意見を求めるべき」
「他……ねぇ」
 思いつく面々もあるが、管理局関係者は今回の件に限っては除外すべきかと眉根を寄せる。
「話ができそうなのは施療院くらいか?」
「……かも。ザザさんのお友達は?」
「俺の? ……ああ、ティアロットか。あれも何か思いつきそうではあるが」
 さりとて彼女は基本防衛任務でそこら辺をうろうろしている。南砦にでも行けば遭遇率は上がるだろうが必ず遭えるかは定かでない。
「あと、一応、依頼は完遂したとも考えられる」
「ん? そりゃどういう事だ?」
「依頼は『大地に種を撒いても目が出ない理由を知りたい』だから、『地面が水やを保持できないから』が回答」
 確かにその通りだ。別に解決策を求められているわけではないのだから、この時点で依頼を果たしたとしても文句を言われる筋合いは無い。
 それでもわざわざ森まで来ているのは、自分達の疑問が深まった結果、納得がいかなかったからにすぎない。
「土もプランターとかに囲えば保持できる事は分かってるんだから……そういう場所を作るしかないと思う……」
「そうだろうな。で、俺達が首をかしげている事は、故クロスロードはそんな特別な事をした履歴も無いのに植物が育っているか、だ」
「……だね。今の理屈からすると、怪しいのは壁か地下……」
「だが、むやみやたらに掘るわけにもいかねえか」
 わざわざ地面を深く掘ろうなんて考える物好きが少ないため余り知られていない事だが、地面を深く掘ろうとするとPBから警告が出るようになっている。これはクロスロードの地下に敷設されている上下水道を破損されては困るからだ。
「建前上は、だろうかね」
「……でも、地下室ってあまり聞かない」
「大図書館くらいか? そんなものがあるのは」
 地下三階層というかなり深いところまで地に埋まっている施設はそこくらいなものだろう。後は扉の塔の地下階くらいか。地下にあるのが通例のようなバンドハウスも各種防音対策の恩恵により地上階に存在している。地下である必要というのはスペースや騒音、温度の事が何とかなってしまうならば必要のない場所である。大図書館地下階は各種危険な物を封じるためにそういう場所にあるのだろう。
「コアが恐怖しているものってのも気になるんだがなぁ……」
「一番の天敵は……アースさん?」
 大地その物を大規模に操る彼女を前にしては森とってひっくり返される恐れもある。
「だがあの人は基本東砦だろ? クロスロードを、ってのには合わない気がするな」
「……。私もそう思う。そうなると他に候補が居ない」
「イルフィナ、南砦の管理官はどうだ?」
「……あの人良く分からないけど……アースさんと同じ理由で除外して良い思う」
「……だな。ふむ……
 壁か地下か、というのは大凡間違って居ないだろうが」
「……壁ってどうなんだろ?」
 ポツリ呟く。
「例えば円筒を作って置いたら、そこは壁の中?」
「……壁が理由で、壁その物に仕掛けが無いとすれば、そうするだけで円筒の中の土は植物をはぐくむはずだ、か」
 試してみればすぐに分かる事だが、そうにもそれは上手くいきそうにも思えない。
「それに、良く考えたらオアシス……衛星都市の湖は水を保持している……」
「サンロードリバーもな。だがあれは……たしか『オアシス』や『川』という概念が正常に存在するからそれを維持できているとかそういう理由じゃなかったか?」
「じゃあ。この地面はその概念を正常に維持できていない……?」
 己の言葉をひっくり返せばそういう事になる。ザザは眉根をより一層深くひそめて瞑目する。
「プランタの中では外の土でも植物は育った。それって……今のダメな地面から切り離せたからかな?」
「地面に保水用の何かを敷くってのは間接的にそれを実現するのか……。
 ならばやはり地面の底に何か必要って事になるのか?
 いや、それならあの土地が『クロスロード』だって概念とか言うやつで区切られているからって事になるのか?」
「……概念って曖昧すぎて良く分からないから、何とも言えない」
 学者によっては『概念』などと言う抽象すぎる原理を、単なる思考からの逃避と頭から否定している者も居る。
「でも、オアシスとは違ってあの町は何かを倒したからできた場所じゃない……条件が違うような気がする。それに、さっきの円筒説が成立する事になる?」
「……森を出たらちっとやってみるか」
 休憩は終わりと立ち上がり森の外を目指す。

 なお、森を出て試した円筒を置く実験では結局水を保持できない事がわかり、違うと判断をせざるを得なかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

 その後、依頼主や施療院の関係者と協議をした結果、やはりプールのような場所を地面に設置し、その中で土を作る方法が一番現実的だろうという結論となった。同時にその案は莫大な労力を必要とする。もしクロスロードの食糧事情を解消しようと言うのであればかなりの時間と手間を掛けて、いつ襲撃されるかもしれない場所に設置する必要がある。やはり現実的とは言い難かった。
 その上で二人が森の中で話した話を元に、仮にどこかのフィールドモンスターを討伐する事ができたならば、その土地は正常な大地として機能する可能性があるというのが注目されることになる。
 しかしながら現時点で発見されているフィールドモンスターは水魔のみである。或いは、見つけているかもしれないが、その結果未帰還となった探索者も居るのだろうか。
「しっくりこない話だ」
「……いつか分かるかもだから」
 アインとて追及したいところではあるが、そればかりにかまけているわけにもいかない。
 いつか真実を。
 そう口ずさみながら二人はクロスロードの街並みに消えて行った。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「まだそうやってんの?」
「良いじゃない」
「なんかずっこい気もするけど」
 アルカのやや険のある言葉にくすくすと笑う声が小さく響いた。

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 と言うわけでこれにて「不毛の大地に」は終了となります。
 話の通り依頼その物は達成していますので報酬3万Gと経験値5点を配布します。
 お疲れさまでした。

 さて、今回残された謎はいつ解き明かされるのか。
 ……ホント、引きずってるよなぁ(=ω=;
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ADMIN