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【inv33】『不毛の地に』
『不毛の大地に』
(2014/06/27)
「やはりダメか……」
 その声には落胆はある。しかし、どこか「当然」という響きもあった。
「どうしてだめか、分からないの?」
 護衛と言う名目で依頼人である脇坂に同行していたアインが問うと、彼は地面を触り、土を握る。それからそれを持ちあげてパラパラと落として見せた。
「この土はほぼケイ素で構成されている」
「ケイ素?」
「簡単に言えば、この土には植物が育つための水や栄養素が全くと言っていいほど存在していない」
 なるほどとアインは頷き、しかし首をかしげて
「でもそれなら水や肥料を撒けばいいだけでは?」
「無論試した。それがこの場所だ」
 眉根を寄せてこの場の土と、それから少し離れた場所の土を見比べるが彼女には違いが全く分からない。
彼女とて自分の世界で農地を見た事はある。少なくとも農地の土はこんなぱらぱらと乾いたモノではないし、色も淡い黄土色ではないはずだ。
「理屈はわからないが、この土は肥料や水を受け付けない。地表に残ってそれが雨や風に飛ばされて消えて行くようだ。
 無論耕して混ぜてもみたが、一週間もすればこのありさまになっている」
「この世界の特性……ということ?」
「ただそれだけの話ならば諦めも付くのだがな」
 脇坂は振り返り、クロスロードの防壁を見る。
「あの向こう側、クロスロードには木々が生えているだろ?」
 特に立派なのは大図書館周辺だろうか。春には桜が満開となり、夏には芝生が青々としている。
「クロスロードで土壌改良をしたという話は無かった。しかしあの壁を隔てただけで土の質がこうも変わる理由が分からないのだ」
「なるほど……」
 確かにそれは不可解だ。単純に扉の塔の周辺では、と言う可能性もあるが、それならどこかに明確な境界線があるのだろうか。
「……その原因究明がお仕事?」
「そうだ。このクロスロードは常に飢餓という危機をはらんでいる。それを取り払う事が出来たならば、この世界の探求もきっと進むだろう」
 すぐさまそこに直結するかは分からないが、万が一扉が閉ざされるような事態になれば、この世界は飢えという最悪の事態に直面する事は間違いない。
「……あそこはまだ危ないし……」
 アインは視線を彼方へと向ける。そこには荒野の真ん中にぽつんと緑が浮かんでいる姿があった。
 『森』とだけ呼ばれるそこは知性ある植物が二極に分かれて争い続ける土地になっている。一応来訪者に友好的なグループが優勢を保ってはいるようだが、最悪の場合敵になるかもしれないと言う困った存在だ。当初は数カ月で友好側が制御権を掌握すると考えられていたが、来訪者の協力が薄かったせいか、今でも均衡状態を維持しているらしい。
 最早知らない者も多いだろうが、『森』の当初の目的は大襲撃の果てにクロスロード周辺に埋没した怪物の死体、その複合物が生み出した「毒」を浄化するための存在だ。どうやらその役目はすでに終えているらしい。果たして同時に必要な成分まで抜けてしまったのだろうか?
 否、彼が肥料を撒いた後に『森』が通過したならばまだしも、彼の言いようではそういう事では無いらしい。
「確かに大事な事」
 さて、今回は何が原因なのだろうか。

◆◇◆◇◆◇

「「ヨンだぁ〜」」
 二体の緑の少女に飛び付かれ、ヨンは後頭部を壁に叩きつけられた。

「やぁ、久しぶりだねぇ」
 大図書館地下三階。困った研究者の巣窟である閲覧室の一つ。そこに陣取るニギヤマは、椅子に背を預けたまま薄い笑みを浮かべる。
「急にお邪魔してすみません」
「むしろもっと来てくれても良い。未だによくわからんが、この子たちは君を大変気にいっている」
 ヨンの両脇に張り付いている緑の少女たちは『森』の核たる存在、コアユニットと呼ばれる少女の上位コピーである。
「会話が随分と流暢になりましたね」
「ああ。組織がどんどん複雑化していると同時に自我を強固にしている。
 この二人は最早『森』のユニットとは全くの別存在だよ」
「それで、土壌改良の件はどうなんですか?」
「例の脇坂ってヤツの依頼かい?」
 ご存知で、とヨンが笑みを見せるとニギヤマは目を細める。
「土壌の汚染についてはかなりの範囲で完了している。無論川を越えられないから南側だけの話だけどね」
「ならば、その土地では農業が可能だと?」
「そうなら彼は依頼を出していないさ」
 ザザの問いに男は苦笑を見せる。
「私のもくろみは一様の結果を見た。が、出てきたあの土は砂漠よりもタチが悪い。水を保持しない、栄養を保持しない。どんなに手を尽くしてもあの『土』で存在するんだ」
「だが、『毒』は存在していたんだろう?」
「それも疑問の一つなんだがね。
仮説としてはその『毒』の源が「怪物」だからではないかと考えている。怪物はこの世界を壊し、変質させる力がある。その副次効果ではないだろうか」
 今までの事件を考えるとありえる話だとザザは小さく頷く。
「だが、『森』は何故あんなに生い茂る事が出来る?」
「あれは地面の上に足の生えたカーペットを敷いているようなものだ。『森』の植物はあくまでそのカーペットの上に生えている」
「じゃあ森を広げれば?」
「事実上畑とできる土地が広がる事になるね。まぁ、一年以上経過してまだ今の『森』を掌握できていないのだから、広げたらどうなるかは火を見るより明らかだが」
「そこは何とかならないのですか?」
「なんともなぁ。この前の大襲撃を見る限り、あの『空帝』とやら影響だと推測される。コアユニットから離れれば離れるほど100mの壁による繋がりの断絶は当然として、存在も歪みを発生するのではないかと考えているよ」
 ザザは自分が前後不覚になった瞬間を思い出す。自分と言う存在を掴むことすらできず全てが狂っていく。それが『100mの壁』の正体ではないかというのが巷で囁かれている話だ。
「まぁ、何もしていないわけじゃない。その一環がこの子たちだからね。
 要は自我のしっかりした「来訪者」足りえる存在ならば良いわけだ」
「なるほどな」
「ただ、自我が強くなるほど孤独というものに耐性が薄くなってなぁ。
 この子らは充分にコアユニットとして運用可能なのだが、それを承諾してくれん」
「……ダメじゃん」
「難しい話だよ」
 楽しそうに笑うニギヤマにヨンは何とも言えない顔をする。
「結局のところ、土壌改善は中途半端に停滞中。地面を何とかする方法は今のところ無し、ということか?」
「いや、ヒントはある」
 ザザのまとめにニギヤマが指を一つ立てる。
「このクロスロードには緑が茂っている」
「……確かにそうですね」
「管理組合が何かしたんじゃないのか?」
「ならばその技術は公開してもおかしくないとは思わないかい?
 食料自給率が上がる事を忌む理由があるならともかく」
 確かにその通りだとして先を促す。
「クロスロード設立当時からこの町に居た者にも話を聞いたが、そのような土壌工事については目撃証言も記録も無い」
「昔からこの土地だけは別扱いということでしょうか?」
「だが、最初の大襲撃前、三世界が争っていた時代のことだ。
扉から逃げる事もできなかった者達が直面したのは食糧問題だった。彼らは当然自給を試みたが、誰ひとりとして農業に成功した者は居なかったらしい」
「……じゃあ、クロスロードができてから、変わった、と?」
「そう考えるのが妥当だろう。
 私もこの件には興味がある。何か分かったら教えてくれると嬉しい」
 ザザとヨンは顔を見合わせる。なにやらきな臭いにおいがしてきたのは気のせいだろうか?

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
というわけで新シリーズです。
果たしてこの地に実りをもたらす事は可能なのか。
ではリアクションをよろしくおねがいします。
『不毛の大地に』
(2014/07/17)

 クロスロードと言う場所は特異である。
 特に科学者にとっては夢のような、そして悪夢のような場所であろう。
 時間にまつわる魔術、異能こそ使えないが、植物の急速成長などは木に親和性のある精霊使いや、豊穣の神に仕える神官が居ればいともたやすくやってのける。今までやってた事はなんだったのだろうかと頭を抱える者も居るかもしれない。
 一方でそれを生命への冒涜と言う物も居るかもしれない。だが、この町ではごく日常的な風景の、誰も気にしないひと欠片である。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「……芽、出てる……」
 朝。
自宅の庭ということで、家着のままのアインは庭に置いたプランタに視線を落としていた。
そこには緑の目がいくつか見てとれる。成長の早い、しかし何の意味も無い雑草だが結果にこそ意味がある。
というのもこのプランタ、壁の外と壁の内側の土を混ぜて、雑草の根を埋めてみたものである。
「……土壌汚染、というわけではない?」
 一応それについては依頼人も調査をした事なので確認程度の行為ではある。しかし「外の土が毒」というのはこれで考え難くなった。
 依頼主の言葉からすれば「外の土は植物の栄養を保持しない」だ。クロスロード内の土を混ぜた事で、或いはクロスロード内にあることで、この土は「栄養を保持した」と考えるのが妥当だろうか。或いは中の土を混ぜたから? 少なくとも肥料などは撒いた事があると言っていたのでタダ土を混ぜるだけでは効果は薄そうなものだが。
「やっぱり場所の問題?」
 三つほど違う場所でとってきた土で同じようにテストしているプランタはあるが、同じような結果だ。それでもたかだか三カ所。依頼人が農作業を試した地域がピンポイントで悪かったのかもしれない。
「……ん」
 ……というのは試してダメだった時点で調査していることだろう。と肩を竦める。この件、施療院も協力しているという事で、科学的調査や魔法的調査もいくらか行われているそうだ。
「……クロスロード近辺、南側は毒はほぼ無い?
 ……とすれば、ますます謎」
 顔を上げる。遥か先にそびえる「壁」
 このクロスロードを守る壮大な建築物は、塔や園とは違い、この地へ訪れた者達が築き上げた物だ。或いはその時に何か仕掛けを施したのだろうか?
「確かそれはザザさんが調べるとか言ってたっけ……後で話を聞こ……」
 朝も早いと言うのに日はすでにまぶしい位だ。視線を巡らせれば庭に植えられた植物が青々と葉を茂らせ、光合成を全力で行っている。
「何が原因? 何が問題?」
 否、何に目を向けるべきか。
 今日も暑い日になりそうと呟いて、彼女は今日のスケジュールを考え始めるのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ふむ」
 壁周りは舗装されている。元々は地面を潜ってくる敵を警戒しての事だが、壁に設置された砲台への物資供給路としても利用されている。
「流石に壊して地面を見るわけにはいかんか」
 周囲を見渡す。壁から約10mほど離れて初めて地面が見えるところがあり、そこに触れて見るが、残念ながら他とどれだけの違いがあるかは彼には分らない。
「PBにも壁のデータは詳しくは無い、か。登るための通用路は記載されているんだがな」
 となれば、管理組合に聞くべきか。
 と、足元を通る影に視線を向ける。
「なぁ」
『御用で?』
 町中を歩き回る保全ロボセンタ君の1体がザザの巨体を見上げる。
「この壁、どのくらい地下にもぐっているか分かるか?」
『正確には地下に壁はありません』
「正確には、って言うと?」
『三度目の改修工事時に壁の下を中心に土系魔術や硬化系魔術による付与を地下10mに渡り実施。そのため疑似的な壁は地下10mに達していると表現できます』
 なるほど、と頷く。だが同時に手を入れてはいるものの、少なくとも地下の素材は同じ土だと言う事だ。
「この壁の素材は何だ?」
『様々な物資の複合材をコーティングや魔術付与で強化した物です。今では露出していない第一次工事部分はその辺りの地面を精霊魔術で壁としました』
「硬化魔術意外に何か処置はしているのか?」
『記録にはありません。壁からは有害、無害に関わらず周囲に影響を及ぼすような物質、波長の検出もありません』
 センタ君がどこまで真実を述べているかという問題はあれど、言葉を信じるならばこの壁はシロだ。
「じゃあよ。なんでクロスロードの中だけ植物が生えてるのか分からないか?
管理組合が何かしているとか?」
『管理組合管理継続区域では定期的な植物の手入れ、維持管理を行っています』
「そりゃ、どういうもんだ?」
『各植物に合わせたメンテナンスです』
「……普通の園芸レベルってことか?」
『肯定』
 特別な事はしていない。しかし差はある。
「呼びとめて悪かったな」
『いえ。良い一日を』
 ぺこりと器用に体を傾けて歩き去るセンタ君を見送りつつ、ザザは顎をしごく。
「目の付けどころが間違っているのか。それとも、秘密なのか。
 ……やれやれ、どこに目を向けるべきかね」
 ニギヤマの話ではクロスロード成立前のこの地は外と同じだった。
 壁で無いとすれば何が変わったのだろうか。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「っと。しかし、ここに来るのは久々ですね」
 ホウセンカの熱い歓迎を何とかいなしてヨンは目的地を見定める。
 ここ『森』は管理組合からも重要管理区域として来訪者へのアプローチが奨励されているものの、環境の厄介さから参加する者が少ない状況が続いている。
 現に毒を持つ者やマヒをさせる者も多く、生半可な実力ではうっかり全滅しかねない土地だ。
 そこに一人で乗り込むというのは本来無謀である。が、ヨンがある一点を目指すならば話は別である。
「っ!?」
 背後での動きに慌てて振り返ろうとするが襲い。緑の手がぎゅとヨンの腰を抱き、顔が背中に押しつけられる
「ヨン、久しぶり」
 以前よりもずっと流暢な言葉が彼の耳朶に届く。
「ああ、すみません。随分と久し振りで」
「良いの。来てくれたから。このまま監禁する」
「……いやいや待ってください!? ちょっと過激すぎやしませんかね!?」
 自我が強くなれば孤独を強く感じる。
 ニギヤマの言葉は正し過ぎる程に正しかったらしい。
 十分少々を掛けてなんとか説得したヨンは、楽しげにこっちを見ているコアに罪悪感を感じつつ、しかし引きのばしても仕方ないと言葉を繰り出す。
「土地の浄化は進んでいるのですか?」
「うん。お父さんに言われた範囲はほとんど終わり」
 彼女が振り返った先には、本当の彼女の本体たる木と、その周りに毒々しい色の大量のキノコが見えた。あれひとつが化学兵器に等しく、以前、酷く綱渡りな戦いを強いられたと思いだす。
 で、だ。本来ならば彼女の仕事はひと段落ついていると言えるのだろう。しかし敵対するコアが存在する以上、クロスロードサイドのコアの元締めである彼女をこの「森」から欠けさせるわけにはいかない。本当は「一人でさみしくないのか」と問うつもりだったヨンだが、それはさっさと呑み込んでしまった。愚問にも程がある。
 そこにあるキノコをすべて回収しても、森が有する戦力は案外馬鹿にならない。鋼鉄の弾丸に等しい種子を飛ばすホウセンカ(砲閃花と当て字する者も居る)や、人食い植物が繁茂し、それがヘヴンズゲートにでもまとわりついたら目も当てられないことになるだろう。
 彼女に自由を与えるには、『森』の勢力図を一新し、敵対するコアを排除する必要があるのだ。
「ここに来る人が増える方法は無い物ですかね」
 今日一日位はここに居る事を覚悟しつつ、ヨンは真夏間近でも涼しい風の吹き込む緑のじゅうたんの上でぽつり、呟くのだった。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
古来より、ドライアードは男性を取り込みます故。

ヨンさんが無事森を脱出できたかどうかはさておき、第二回目でございます。
果たして注目すべきはどこか。
リアクション宜しゅうお願いします。
『不毛の地に』
(2014/08/02)
「あー、うん。なるほどね」
 クロスロード建設当初のメンバーは相当数居ると言われているが、強いて指すならば『門前会談』と呼ばれる最初の大襲撃後に開催された会議の参加者を指すべきだろうか。しかし現時点でもそのメンバーは明確になっていない。だが、確実に参加しているだろう人物は四人ほど分かっている。
 即ち管理組合副管理組合長にして『救世主』とも称される四人だ。
「クロスロードの拡張、ねぇ」
 そのうちの一人、ケルドウム・アルカは彫金をしつつ言葉を漏らす。
「実験という形で構わない。何とかできないか?」
 話に聞く限り、国王かはたまた大統領かという身分の彼女らだが、ここ、サンロードリバー沿いにある魔法鍛冶屋『とらいあんぐる・かーぺんたーず』で結構気楽に会えたりする事は、一年もクロスロードに住んでいるならば誰でも知っている。まぁ、知ったからと顔を出すかどうかはまた別の話だろうが。
「ザザちんはさ、どうやったら『拡張された』って思うの?」
「……壁を広げる、とかか?」
「壁の高さは20m。しかもほぼ真円状に町を囲む壁を純粋に広げるとなると、現在の壁を建設した時の数倍の労力が必要にゃね」
 ちなみにクロスロードの半径は約30km。単純計算しても180Km以上の防壁が存在しており、それを広げるとなると、以下略。
「ではコブを付けるような形で一部分広げるというのはできないのか?」
「二元論で言うとできるけどさ。いったいどれくらいの広さを確保したら拡張したように感じる?
 小さいと単なる見張り塔でも建った程度じゃない?」
 確かにその通りで、そして充分なサイズを確保するとなると
「最低でも壁が日を遮らない程度、って感じかにゃ?
 それだと随分な広さになるにゃよ?」
「作業の手間や費用は一旦脇に置いて、そんな場所を作る事は可能か?」
「できない、かな。
技術、労力的にはぶっちゃけ問題は無いけどね、管理組合としてはやりたくないにゃ」
「それはどうして?」
「できると思われたくないし、やったって言う実績を作りたくないにゃ」
 思った事の外の回答にザザは訝しげに眉を上げる。
「どうしてだ? 来訪者の暮らせる範囲の確保という意味では間違った方策ではあるまい」
「ここがクロスロードだから、にゃよ。
 拡張するって事は防衛すべき個所が増えるって事にゃ。現在クロスロードが保有する戦力を踏まえると、現状が限界にゃよ」
 管理組合の発表ではこのクロスロードには約三十万の来訪者が居住可能だと言う。これは地球世界ではちょっとした都市レベルである。
「他の都市ならもう少し気楽にやれるけど、ここは扉の塔と扉の園を死守しなきゃいけない義務があるにゃ。それをないがしろにして拡張なんて選択肢に入らないにゃよ」
「実験でも、か?」
「じゃあ、ザザちん。クロスロードの土地が拡張可能だとしたらみんな何て言うと思う?」
 クロスロードの人口は約15万人から20万人。まだまだ余裕はあるがそれは住居に限った事だ。
 様々な施設の建設許可願は絶え間なく管理組合に寄せられているが、管理組合はその尽くを退けていた。全員の要求を満たすほど空き地に余裕は無いし、決め方云々よりも誰かが特別に土地を得た形は採りたくないと言う事か。
 それがもし、土地の拡張が可能だとすれば話は変わる。拡張した土地に好き勝手建物を建てれば良いのだ。そうして広がった防衛戦はクロスロードの弱体化に直結する。
「もしもクロスロードが定員いっぱいになったならその案はありえるんだけどね。現時点では実験であれ承認するわけにはいかないにゃよ。
 まー、ここがいっぱいになるにしたって別の拠点を建てる方向がベターなんにゃけど」
 ザザが考えたのは「ここはクロスロードである」という共通認識が土地を変質させているのではないか、という事。その為には秘密裏に拡張しても意味が無い。そして公表するならば、アルカの言う問題が降って掛かるということだ。
「……この案はダメか」
「提案としては面白いと思うけどねぇ」
「……アンタはクロスロード内じゃ植物は育つのに、外じゃ育たない理由に心当たりは無いのか?」
 次の案を検討しつつ、ついでと尋ねた言葉にアルカは笑う。
「心当たりはあるにゃよ。『森』では植物が育ってる。それが答えじゃないかなぁ?」
 ……ザザは眉根を寄せて猫娘を見る。
「この町のためになる事なのに、そんなヒントだけか?」
「うん」
 即答。そしてそれ以上は口を開かない。この人物は確かに「猫」の性質を持ち、人をもてあそぶような言動をする事も多いが、「クロスロードのため」に動かない人物では無い。
 ならば、
「……答え合わせはしてくれるのだろうか?」
「100点満点の回答なら、かな?」
 彼女の立場上答えられない理由がある、という事か。
 思わぬヒントと壁に直面したザザは一礼すると、その答えを求め、店を後にするのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「なるほど。その結果はこちらでも確認しています」
 機械生命体の女性(?)がアインの説明に頷きながら資料を見る。
 ここは施療院の本部。クロスロードの医療施設の元締めのような組織である。といっても医師免許を発行したりしているわけでなく、クロスロードの独特な法則に基づき、謝った治療をしないように講習を開いたり、様々な世界の技術を掛け合わせ、新たな薬や医療技術の開発を主な活動にしている。
 世界によっては「パナケア」や「エリクサー」など万能薬と言うに等しい薬品が存在する。が、クロスロードでそれが十全の役割を果たすかと言えばそうではない。
 来訪者の身体に直接影響を及ぼす物はその所持者(或いは制作者)の技量に伴い効果の増減が発生するのである。これは体内で毒物を生成する能力を持った者が、本来の毒の性質を無視し、クロスロード特有の力の制限を受けて毒も弱体化する、という現象に近いと考えられている。
 つまり有能な薬剤師と三流の薬剤師が同じ製法で同じ薬を作っても、その効果に差が出るのだ。一方で包帯を巻いておけばどんな怪我でも治癒速度が高まるというレポートもある。
こういう特異な現象により、ターミナルにおける医療行為は複雑になればなるほど安易に行ってはいけないものとなっている。ちなみに治癒魔法も不死者に対し「回復」として作用する事が多い。そういう様々な治験を収集管理、公開しているのである。そしてそれは動物に限らない。植物や機械生命など、治癒、修理に関する一通りを押さえている。
「肥料がちゃんと混ざれば育つと思う……。違う?」
「同見解です。恐らく貴方の記録した植物が育ったのはプランターで育てからでしょう」
 プランターで? と小さく首をかしげる。
「それは……中の土と混ぜなくても、プランターに入れて肥料を混ぜれば育った……?」
「特に保水性が欠けているため、少しの時間は必要と思われますが。外のように足した端から肥料の成分や水が抜けて消えると言う事は無いと推測しています」
「……じゃあ、外に大きなプールを作って……その中に土を詰めれば問題なし?」
「理論的にはそうなるかと。その土に埋めた枠が永続的に無事かどうかという問題はありますが」
 そこまでの話を聞いてアインはしばし黙考。それから気付いたように顔を上げる。
「……ああ、そうか。『森』って」
「はい。あれは根と下草により貴方の言う「プールの底」を形成している状態です。
 故にあの上では植物の繁茂が可能なのでしょう」
「それは、あの人に教えたの?」
「はい、連絡済みです。しかし、クロスロードではなぜ「プランターに入った状態」と同等になっているのか。この謎の解には至っていない、と」
 確かにその謎が解ければ外での農作業は安全はさておきかなり現実味を帯びて来るだろう。
「施療院としてはどう考えているの?」
「まだ公表できるほどの仮説も立てられていない状況です」
 ん、とアインは鼻を鳴らし、天井を見上げる。
 何故肥料が混ざらないのか。恐らくその解は「町の外はざるの上に水を流すような状態になっているから」で大凡間違いないだろう。ざるの上にコップをおけば、コップの中には水は溜まる。
 ではクロスロードのコップとは何か。或いはクロスロードのざるの目を埋めている物は何か。
「……」
 施療院のロボ子に礼を言い、アインは新たなヒントを頭に、次の手掛かりを求めて炎天下の町へと歩を進めるのだった。

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

さて、今回のこのシナリオ。過去に何度かあったある話にリンクします。
が、そこまで来訪者は辿りつけるでしょうか。
うひひ。リアクションよろしゅう。
『不毛の大地に』
(2014/09/03)
「ヨンさん、よくここ一人で突破できるね……」
「まったくだ。……まぁおおよそ『森』に気にいられ過ぎてるせいだとは思うが」
 ザザとアインは流れる汗をぬぐいつつ先を見据える。うっそうと生い茂った草花のどれが敵意を持ち、襲い掛かって来るかわからない『森』。管理組合から重点攻略地点に指定されながらも、ほとんど放置され続けてきた理由を二人に示し続けている。
「ザザさんが居て、助かったかも」
「お互い様だ」
 二人は元々バラバラに侵入したのだが、幸運にも合流し行動を共にしていた。
 砲閃花の大砲のごとき種を打ち弾く影からアインが飛び出し、その茎を愛用の処刑鎌で切り落とす。本来草を刈る形状故に本領発揮とも言えるが、余り嬉しくない。
「……それにしても、暑い」
「ああ。夏場だから、ってだけじゃねえな」
 確か、と記憶を掘り起こせばこの地面は常にある一定量の熱を発しているそうで、それが夏の暑さと無駄に高い湿度と相乗し、二人の体力を石臼でひきつぶすかのように削っている。
「ゴールはどこだよ……ったく」
「中心には向かってるハズ」
 PBの位置確認能力を使って確認しつつアインが空を見上げる。朝早い時間から乗り込んだのにもう日が傾きかけている。いい加減諦める事も考えたが、出るのも一苦労と思えばコアに遭遇した方が安全だろうと言うのが二人の判断だった。
「こんなことならヨンの首根っこ掴んでくりゃ良かったぜ」
「……同感」
 何よりもこの森の厳しいところは安全地帯が存在しない事だ。気を抜こうものなら危険な植物のツタが手足にまとわりつき、有毒な花粉を吸い込み、あっという間に行動不能になってしまう。おちおち休憩もできない。
 なるべく体力を温存しつつ進む事十数分後、植物の汁などで更にどろどろになった二人はようやく開けた場所に転がり出る事が出来た。
「やっとゴールか……」
「ダレ?」
 ひょこりと顔を出すコア。ザザは遭った事があるが、下手すると一年以上ぶりとなるため、「ヨンの知り合いだ」と答えると、彼女はきょろりと周囲を見渡す。
「ヨンはいないの?」
「悪いが今日は居ない。ちょっとあんたに聞きたい事があって来たんだが」
「……なに?」
「……その前に、ちょっと休憩させてくれ」
「同意〜……」
 ぐったりとへたり込む二人をコアは不思議そうに眺めるのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「森の拡大?」
「そういう事になるのか?」
 問い返されてザザは眉根を寄せる。
 彼が問うたのは足元に広がる緑、つまり森の土台をもっと広範囲に広げる事が出来なかったのかという問いである。確かに端的に見ればそれは森の拡大だろうか。
「いや、しかし上にある植物は危険だし、この土台だけを拡大するってのが要点か」
「広げる事はできる。けど、制御はできなくなる」
 実際制御が届かなくなったため、コアの一部が暴走、というか敵対して今の森の状況が生み出されているのだ。
「この地面も制御しているのか?」
「移動しないとだから」
 移動して地面の毒を吸い上げ、貯め込むというのが森の目的。その上に生える植物はその補助と、一部の実験の結果である。
「この地面に普通の植物は育てられるの?」
「……わからない」
「いっそ種でも持ってくればよかったか」
「他の子、多分育たない」
 コアの言葉を二人は吟味し、先にアインが答えに辿りつく。
「……確かにあの植物よりも栄養が奪える気がしない」
「ああ、そういうことか」
 人を襲うほど元気な植物を押しのけて、ただの植物が繁茂できるとは確かに思えない。
「それに、『草』だけじゃすぐ枯れる」
「ん? 地面から栄養を……あ、いや、そうか。地面に栄養は無いのか」
 この森は上の凶悪な植物を含めてひとつの生命サイクルを形成しているのだ。『水風船』などと呼ばれる周囲の水を集める植物。『ホウセンカ』により討伐した怪物を『食人植物』が喰らい、エネルギーに還元して周囲に分け与えている。そして得たエネルギーを熱に変えて森の温度を『草』が保っている。
「……やっぱり地面から栄養は取れない?」
「わからない。回収したのはそこにあるけど」
 彼女の後ろに繁茂する禍々しい色のキノコには地面から回収した成分が蓄えられている。この中にはうっかり破壊するとザザ達が即死するものすらあり、定期的に探索者が回収し、研究室や施療院で解析をされているのだそうだ。
「ここで植物が育つのは……クロスロードとは意味が違う?」
「そんな気がするな。いや、完全に違うかどうかはわからんが……」
 二人が考え込むのとどこかぽやっとした顔で眺めるコア。黙っていても仕方ないとザザは思い浮かんだ事をとりあえず口にしてみる。
「なぁ、クロスロードの中にあんたの仲間がいたりするのか?」
「お父さんの所にコピーが居る」
「いや、そういう意味じゃなくて、土地そのものにだ」
 もし既に彼女と同じ、或いは改良された存在が根付いているのであれば、クロスロード内で植物が繁茂する理由がつく。
「……」
 ほんの少し、コアの表情に困惑に近い物が浮かんだのを二人は見た。言葉が見つからないのだろうか。ぐるぐると視線を彷徨わせ、やがて言葉を見つけてザザを見返した。
「くろすろーどには近づいたら怖い。おこられる」
「博士……お父さんに?」
「ちがう。もっとこわい」
 クロスロードに怖い人。そんな候補はいすぎて困るが、
「この子。森から出た事無いんじゃなかった?」
「……確か、そんな事を聞いた事があるな。ってことは、管理組合の連中が釘を刺しに来たとかか?」
 数多の危険植物を抱える森がクロスロードと接触すれば間違いなく大騒ぎだ。壁の損傷も懸念される。釘を挿すぐらいやるだろう。しかし、
『こわい』
 その一言が気に掛かる。
 管理組合の有力者は大体見知った気がするが『こわい』と言う言葉が似合う人物が居ただろうか。
「フィルさん?」
「あの人は確かに怒ると怖そうだが……こいつに対して威圧するとは思えんな。
 ……イルフィナか?」
 言ってみたが、彼も基本紳士的な態度で接する。よほどの事が無い限り恫喝などしないだろう。
「どんな人なんだ?」
「……」
 彼女は答えない。『恐れて』と言うわけでは無く、どうも表現できなくて言葉に詰まったようだ。
「男か女か、も分からないか?」
「……おんな。とおもう。私の前に出たのはわたしとおんなじ」
 ぽむぽむと比較的豊満な胸を叩く。胸があったと言う意味だろうから、外見上女性型だろう。しかし
「来た、じゃなくて出た、ってのは?」
「……」
 困った顔が強くなる。彼女の表現力ではこれ以上の説明ができないらしい。
 それは同時に
「……普通の人じゃない?」
 アインの率直な思い付きは恐らくニアピンくらいしているだろう。
「女性型、怒る、怖い、出る……突然現れる? いや、この世界ではテレポートはできないはずだが」
「100mの範囲なら可能だけど……それじゃこの子の認識圏内」
「だな。……レヴィがわざわざクロスロードのためにここまで出て来るとも思えんし」
「あの人ならこの子利用して、ヨンさんへの嫉妬を煽る」
 全く持ってその通りである。
「名前とかもわからないのか?」
「知らない」
 これ以上有効な情報は得られなさそうだ。
「怖い人……やっぱり管理組合の関係者……?」
「それが一番可能性が高そうなんだが」
 それが分かれば何か進展するのだろうか。
 思案に暮れ、上を見上げれば夏空もすっかり薄暗くなっていた。
「可能な限り色々聞くか……」
 今からまたあの森を抜ける気力は無い。ここで休ませてもらう事を前提にして、ザザはそう提案したのだった。

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遅くなりました。風邪っぴきの神衣舞です。
さて、そろそろクライマックスに行くかなーと思っています。
分からなかったエンドもありますが。さて、『彼女』を示す情報からゴールに辿りつけるのか。
リアクションをよろしゅう。
『不毛の大地に』
(2014/10/18)
「畜生、領地を越えたらこれかよ!!」
 打撃攻撃を主とするザザにとって植物系の敵は相性が悪い。茎は細く良くしなり、花の部分も軽い。一部を殴り飛ばしてもそれで戦闘不能になるわけでもなく、下手をすれば触手の一、二本を生贄に差し出してこちらの身を削ってくる。
「フッ」
 小さく息を吐いて一閃。ザザを盾にして忍び寄り、地面すれすれに銀弧を描く。一方でアインの持つ鎌は元より植物を刈るためのシロモノだ。相性はかなり良い。攻防を明確にして二人は周囲の植物を駆逐し続ける。
 しばらくして、ようやく付近の植物を一掃し、潜んでいたコアを撃破した二人は人心地つくことができた。
「助かった」
「お互い様」
 アインとて全方位からの攻撃を捌き切れる自信は無い。特にホウセンカの種弾幕などは一発でも喰らえば致命的だ。それを防ぐ盾があるというだけでそのアドバンテージは計り知れない。
「にしても、どうだ?」
「……どう、と言われても。思いつかない。
 今までの情報を開示して、いっそ他に意見を求めるべき」
「他……ねぇ」
 思いつく面々もあるが、管理局関係者は今回の件に限っては除外すべきかと眉根を寄せる。
「話ができそうなのは施療院くらいか?」
「……かも。ザザさんのお友達は?」
「俺の? ……ああ、ティアロットか。あれも何か思いつきそうではあるが」
 さりとて彼女は基本防衛任務でそこら辺をうろうろしている。南砦にでも行けば遭遇率は上がるだろうが必ず遭えるかは定かでない。
「あと、一応、依頼は完遂したとも考えられる」
「ん? そりゃどういう事だ?」
「依頼は『大地に種を撒いても目が出ない理由を知りたい』だから、『地面が水やを保持できないから』が回答」
 確かにその通りだ。別に解決策を求められているわけではないのだから、この時点で依頼を果たしたとしても文句を言われる筋合いは無い。
 それでもわざわざ森まで来ているのは、自分達の疑問が深まった結果、納得がいかなかったからにすぎない。
「土もプランターとかに囲えば保持できる事は分かってるんだから……そういう場所を作るしかないと思う……」
「そうだろうな。で、俺達が首をかしげている事は、故クロスロードはそんな特別な事をした履歴も無いのに植物が育っているか、だ」
「……だね。今の理屈からすると、怪しいのは壁か地下……」
「だが、むやみやたらに掘るわけにもいかねえか」
 わざわざ地面を深く掘ろうなんて考える物好きが少ないため余り知られていない事だが、地面を深く掘ろうとするとPBから警告が出るようになっている。これはクロスロードの地下に敷設されている上下水道を破損されては困るからだ。
「建前上は、だろうかね」
「……でも、地下室ってあまり聞かない」
「大図書館くらいか? そんなものがあるのは」
 地下三階層というかなり深いところまで地に埋まっている施設はそこくらいなものだろう。後は扉の塔の地下階くらいか。地下にあるのが通例のようなバンドハウスも各種防音対策の恩恵により地上階に存在している。地下である必要というのはスペースや騒音、温度の事が何とかなってしまうならば必要のない場所である。大図書館地下階は各種危険な物を封じるためにそういう場所にあるのだろう。
「コアが恐怖しているものってのも気になるんだがなぁ……」
「一番の天敵は……アースさん?」
 大地その物を大規模に操る彼女を前にしては森とってひっくり返される恐れもある。
「だがあの人は基本東砦だろ? クロスロードを、ってのには合わない気がするな」
「……。私もそう思う。そうなると他に候補が居ない」
「イルフィナ、南砦の管理官はどうだ?」
「……あの人良く分からないけど……アースさんと同じ理由で除外して良い思う」
「……だな。ふむ……
 壁か地下か、というのは大凡間違って居ないだろうが」
「……壁ってどうなんだろ?」
 ポツリ呟く。
「例えば円筒を作って置いたら、そこは壁の中?」
「……壁が理由で、壁その物に仕掛けが無いとすれば、そうするだけで円筒の中の土は植物をはぐくむはずだ、か」
 試してみればすぐに分かる事だが、そうにもそれは上手くいきそうにも思えない。
「それに、良く考えたらオアシス……衛星都市の湖は水を保持している……」
「サンロードリバーもな。だがあれは……たしか『オアシス』や『川』という概念が正常に存在するからそれを維持できているとかそういう理由じゃなかったか?」
「じゃあ。この地面はその概念を正常に維持できていない……?」
 己の言葉をひっくり返せばそういう事になる。ザザは眉根をより一層深くひそめて瞑目する。
「プランタの中では外の土でも植物は育った。それって……今のダメな地面から切り離せたからかな?」
「地面に保水用の何かを敷くってのは間接的にそれを実現するのか……。
 ならばやはり地面の底に何か必要って事になるのか?
 いや、それならあの土地が『クロスロード』だって概念とか言うやつで区切られているからって事になるのか?」
「……概念って曖昧すぎて良く分からないから、何とも言えない」
 学者によっては『概念』などと言う抽象すぎる原理を、単なる思考からの逃避と頭から否定している者も居る。
「でも、オアシスとは違ってあの町は何かを倒したからできた場所じゃない……条件が違うような気がする。それに、さっきの円筒説が成立する事になる?」
「……森を出たらちっとやってみるか」
 休憩は終わりと立ち上がり森の外を目指す。

 なお、森を出て試した円筒を置く実験では結局水を保持できない事がわかり、違うと判断をせざるを得なかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

 その後、依頼主や施療院の関係者と協議をした結果、やはりプールのような場所を地面に設置し、その中で土を作る方法が一番現実的だろうという結論となった。同時にその案は莫大な労力を必要とする。もしクロスロードの食糧事情を解消しようと言うのであればかなりの時間と手間を掛けて、いつ襲撃されるかもしれない場所に設置する必要がある。やはり現実的とは言い難かった。
 その上で二人が森の中で話した話を元に、仮にどこかのフィールドモンスターを討伐する事ができたならば、その土地は正常な大地として機能する可能性があるというのが注目されることになる。
 しかしながら現時点で発見されているフィールドモンスターは水魔のみである。或いは、見つけているかもしれないが、その結果未帰還となった探索者も居るのだろうか。
「しっくりこない話だ」
「……いつか分かるかもだから」
 アインとて追及したいところではあるが、そればかりにかまけているわけにもいかない。
 いつか真実を。
 そう口ずさみながら二人はクロスロードの街並みに消えて行った。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「まだそうやってんの?」
「良いじゃない」
「なんかずっこい気もするけど」
 アルカのやや険のある言葉にくすくすと笑う声が小さく響いた。

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 と言うわけでこれにて「不毛の大地に」は終了となります。
 話の通り依頼その物は達成していますので報酬3万Gと経験値5点を配布します。
 お疲れさまでした。

 さて、今回残された謎はいつ解き明かされるのか。
 ……ホント、引きずってるよなぁ(=ω=;
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