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【inv34】『ミュージックフェスタ!』
『ミュージックフェスタ』
(2014/08/16)
 自分の歌に合わせて可愛く吼える使い魔の子犬を横目に、というか、緊張しないようにそっちをなるべく見ながらチコリは歌を続ける。
 この数日間、ミュージックフェスタをぶらついたチコリは、思い付きに反してやたらと多い聴衆に驚きながらもある結論に達していた。
 つまるところ「歌」単体に飽きている。飽きているというのは言い過ぎだが、ピンキリの歌手が歌いまくった結果、聴衆の耳が上位層を平均値と捉えてしまい、普通に考えれば充分職業としてやっていける歌も聞く対象から除外しはじめたのだ。
 そうすると必然的に聞くべき物が減ってくると。+αの比重が大きくなっていく。
 チコリの思い付きはその+αの一例、つまりパフォーマンスというものに偶然HITしていた。もちろんそれ専用でもない使い魔が美声で歌えるわけもないが、小さな犬が歌に合わせて吼える姿は微笑ましい。歌のレベルなど(酷い言い方ではあるが)どうでも良いとばかりに観客が集まっていると言う事だ。可愛いは正義。
 他にも目立つものといえば楽器の類だろうか。例えば楽器で無い物を楽器として演奏する者、シンセサイザーのように一つの楽器で数多の音を放つ物、馬鹿でかい、複数の楽器を組み合わせた物などが注目を集めているようである。
 そんな中でも歌単体で人を集めている者も居る。彼ら本戦出場確定の者達と、その他の様々な要素を織り交ぜて五日目のクロスロードは昼過ぎを迎えていた。

 予想しなかった数の拍手に顔を真っ赤にしてぺこぺこと頭を下げていたチコリは、ふと観衆の向こう側に不穏な影────もとい、いまからなにかやらかしそうな影を見た。
 というか、なんか顔がヤバイ。
「くっくっく、もはや我が覇道を阻む者は居ないっス!」
『……』
 呆れるという表現ができるのならば、できたてのAIにしては高性能と言うのも頷ける。
『私を作った事は評価に値しますけど、それ以降はぶっちゃけ私の手柄と思いますけどー?』
「何を言っているっス? すべてこの天才的な頭脳が導き出したストーリーっス!
 さぁ、ここに曲も揃った。フィギュアも絶賛作成中っス!
 今こそ、我が偉業を世に知らしめるっス!」
『まー、私としては良いんですけどね〜』
 ノートパソコンから流れ出すイントロ。ポップな感じはアイドルが歌うような媚びた、もとい可愛らしさを前面に押し出したものが街角に響き渡る。
 彼女が何をして来たかと言うと、とりあえず既存曲を覚えさせて演奏し、『萌え属性』なるなんとも不思議な物に運悪く、……魅了された者を確保。その中で作曲の才能がある人をピックアップして曲を作らせたのである。
 とまぁ、経過はどうであれ、ようやくオリジナル曲を手に入れたAIの歌姫はその歌声を披露するに至ったのだ。
「さぁ、聴衆よ! これが新時代のミュージックっスよ!!」
 いつも通りの大仰なポーズの元、その歌は─────

 ・・・・・
 ・・・・・

 五分後。
 あるぇ〜? という顔で立ち尽くすトーマの姿がそこにあった。
『続けます?』
 歌い終わったククが画面から問いかけるが、眉間をおさえたトーマは数秒のためらいのの後、そう主人に問いかける。
「い、いや、ちょっと待つっス」
 ノートパソコンから流れ出た曲も歌声も、決して悪い物ではない。無論最高かといえば色々と突っ込みどころはあるが、平均点は充分に超えていると思う。あと萌え属性による補正もあるはずだ。しかし街往く人々は何事かとトーマを見て、暫くその音を聞き、首をかしげて去ってしまうのである。
「おかしい、すべて揃ったはずっス。な、何が起きたっスか!?
 はっ!? ま、まさか!」
 がばっと顔を上げるトーマ。
「未来に行き過ぎて、時代が付いて来れてない────!」
「いや、えっと、トーマさん?」
 その寸劇を暫くどうしようかと眺めていたチコリだが、このままだとまた違う方向に暴走しそうだなぁと思い、しぶしぶ声を掛ける。
「おや、良く会うっスね。まさか、いや、この音に惹かれてやってきたんスね!」
「え、ええと。曲とはか可愛くて良かったと思いますよ?
 でも……」
 チコリは少しためらい、それから子犬の頭を撫でて、決心したように言う。
「ラジカセで曲流してるようにしか見えないのは、今回のイベントの範囲外では無いでしょうか……?」
『デスヨネー』
 チコリの余りにも的確すぎるツッコミに即座に同意するクク。
「……そ、そんな落とし穴があったなんて……!?」
 唯一、己の発明品の余りにも重大な欠点に今さらに至った自称天才ががっくしと膝を付く。
「機械さんが歌うのは面白いと思うのですが……普通に機械の人、歩いて喋って歌いますからね」
 周囲を見ればロボットやらアンドロイドやら、サイボーグやらを探すことは難しくない。
「時代じゃなくて、場所が悪かったと言う事ですね。
 というか、見た目?」
 ナノテクノロジーにまで手を届かせた世界とも繋がっているこのターミナルで、単に手に持ったノートパソコンから歌を響かせたところで、よほど劇的な曲で無ければ人が集まらないのも当然というものだ。
「こ、このパーフェクトでビューティホーな計画が、こんなところでとん挫するなんて……!」
「でも……見せ方」
 ぽつりとチコリが呟いた言葉にぴくりと反応するトーマ。
「あの、ほら、私くらいの歌でも、この子と歌ってたら結構お客さん見てくれたんですよね。そういう事じゃないでしょうか?
 ほら、見た目トーマさんがあやし……いえ、機械持ってつっ立ってるだけですし」
 あの怪しいオーラで逃げて行った客も少なくないだろうなぁと思ってもここは口を噤んでおく。
「なるほど、ビジュアルっスね! それなら今、ククのフィギュアが絶賛作成中っス!
 それを利用して……!」
「でも、アンドロイドとかにしたら結局目新しさは無いような……」
「くくく、この天才、エンターテイーーメントに関しても天才であるはずっス!
 必ずや! この町の誰もを魅了する、最強の歌姫を作り上げるっスよぉおおお!!
 優勝は頂きっスぅううう!!!」
 水を得た魚……というか、アドレナリン注入された雄牛のような暴走っぷりで走りだしたトーマの背を見送り、チコリは空を見上げる。
 今日は5日目。明日から決勝戦みたいなもので、そこに今から入り込むのは無理なんじゃないかなぁとか、思いながら。
 まぁ、トーマに言っても無駄なので、チコリはどこか空いてるステージ無いかなと考えながら町をぶらつく事にしたのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

「どうだ?」
「俺は乗った。面白そうだしな」
「私もやるー。適当で良いんでしょ?」
「適当じゃなくて、一応基本となるリズムは合わせるんだぞ?」
「えー? どうやって?」
 桜の提案したパーカッションパフォーマンスは呼びかけたスタッフに比較的好意的に迎えられた。未経験者も含んで二十人ほどが賛同してくれたのは予想外だったが。
 というのも数日の祭りに当てられてか、何かやりたいと思ってた者は元々少なくは無かったのだが、音楽と言う物はどうにも敷居が高く見える。
 ましてやプロがひしめく中に割り込むとすれば気遅れもするだろう。
「いや、でもパーカッションって単純な分、難しいんだぜ?」
「どうせ余興だ。楽しいが優先だって」
「ってことはネタに走るか」
「バケツとかモップとか、そこらの機材使おうぜ?」
 桜の言葉に「いいねぇ」と声が上がる。
「よっしゃ、じゃあ未経験者こっち集合。経験者はあっち。経験者はいくつかパートに分けて、サブを未経験者割り振るか。誰か編曲できるか?」
「オデ、デキル」
 無骨なトロールが手を上げたのに皆がぎょっとするが、話を聞けば元々トロールの軍楽隊で、この世界に来てからも音楽に興味を持ち活動していたらしい。リズムパーカッションは自分の庭と言う事だ。
「よっしゃ、時間無いが裏方の作業もあるんだ。休憩や睡眠はちゃんととれよ。
パートわけは休憩時間が同じヤツをなるべく集めたほうが良いな」
 どんどん決まって行く内容に気を良くしながら桜が提案すれば
「進行係が居るから、こいつにわけさせようぜ」
「ダーランドさんにはこっちから許可とっておくよ。十分くらいなら時間ねじ込ませられるだろ」
 と、いろんな言葉が返ってくる。
 練習時間は恐らく合わせても十時間も無いだろう。が、やると決めたからには楽しんでやる。
「合わせは明日の夜。明日の昼前までにここのパートはリズムを提出な」
「おー!」
 誰かが桜の背をばんと叩いて去っていく。
 周囲の者達が楽しげに相談している。
 そんな空気の中、提案した以上、後悔はしたくないなと呟いて、桜は星空を見上げるのだった。

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というわけで次回が恐らく最終回となります。
さてはて、のんびりと進行しておりますが、一応は大惨事にはならないはずです。
ええ。誰かが変なことをしなければ。

というわけでリアクション宜しくお願いします。

  
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