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【inv35】『水魔討伐戦』
『水魔討伐戦』
(2015/05/02)
 音による調査。
 一つの解にたどり着いた面々はその方法を軸にさまざまな案を検討していた。
 
「が、やはり問題は……」
「100mの壁……距離ですね」
 ソナーによる位置把握は有効な手段ではあるが、それなりの速度で流れ続ける川では精度が著しく下がるのは当然だ。精度を上げるために近付くなどすれば、津波の一回で探査機器が全滅しかねないのも悩ましい。
「形や大きさを知るのも難しいのか?」
「サイズはいけるかもしれませんが形は難しいでしょうね。運次第というところもありますが」
 川は場所によって流れの速さが極端に異なる。ある程度計算し、補正をかけたとしても形を知るのはかなり難しいだろう。
「もう一つの問題は生息域ですね。水魔と思われる報告例は数十キロメートルにわたって分布しています」
「機器をばら撒いて当たるかどうかも問題っスけど、当たったところでまた移動されたら意味がないっスね」
「猫に鈴を付けろってか?」
 光明が見えたにしては難題の多い状況に桜が皮肉を漏らす。
 と、そんな軽口がもたらしたのは静寂だ。そして集う視線に桜はつい息を呑む。
「悪い、ふざけ過ぎた」
 とっさに出た謝罪の言葉だが、
「いや、アリっスね」
「絨毯爆撃になりますが、音で位置を確認しつつ、発見次第ビーコンなどを打ち込めば、位置を把握とは行きませんが、近づいたときに知る手段になるかもしれません」
 よもや乗り気の会話に桜はきょとんとし、それから
「いや、例え打ち込んでもはずされたらそれまでじゃねえか」
 と、ついつい突っ込みを入れてしまった。
「いえ、今までの調査から水魔はドラゴン級のサイズがあると目されています。
 とすれば、猫の鈴に気づかれない可能性もある……今までは位置すら掴めなかったのですが、その手段があるならば検討の余地はあると思います」
「音系の技能もちを集めるっスよ。流石に機械のばら撒きじゃコストがバカにならないっス。確実性にも欠けるし」
「『猫の鈴』はどうする?」
「発信機系は100mの壁に引っかかる。光を発するか音を発するか、そういうものが良いのではないでしょうか?」
「しかし音ではすぐにはずされてしまう可能性が跳ね上がらないか?」
「可聴域を同時に調べるっス! 可聴域外の音を発するモノならば気づかれない可能性が上がるし。こちらはその音を捉える機械を用意するだけで済むっス!」
 矢継ぎ早に繰り出される意見を右から左に聞き流しつつ、桜は思う。
「なんか、俺、いい事したっぽいな」
 自嘲気味の言葉は頭をフル回転させる一同には届かなかったらしい。結局この作戦は僅か半日で実行直前まで進められることになった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「作戦第一段階は捜索ならびに調査っス!」
 そして翌日。妙にハイテンションなトーマが壇上に立ち、居並ぶ者たちへ声を放つ。
 ハイテンションな理由は目の下の隈が物語っている。
「音で居場所を確認。反応を探るっス。同時にセンサーや聴覚による探知能力もちが水魔の位置、サイズを調査するっス」
「これには常に津波の危険がありますので、飛行状態での調査、ならびに土系、障壁系技能者が補助に入ります」
 隣に立つ管理組合員が補足をするのを満足げに聞き、トーマが話を続ける。
「発見後にさまざまな音階のククの歌をぶつけるっス! 反応がない領域を確認し、まずは第一段階終了となるっス!」
『異議アリ!!!』
 意気揚々なトーマの言葉をよく通る女性の声が遮り響き渡らせる。
『どうして私の歌が音響兵器扱いされてるのよ! 納得がいかないわ!!!!』
 それは壇上にあるテーブル。そこにぽつんと置かれたノートパソコンからがなり立てているのはトーマの作成した歌唱プログラムだ。
「クク……」
「笑ってるように聞こえるな」
「変な突っ込みはなしっス。
 クク、これはあれっスよ。音楽で悪しき敵が苦しむやつっス。ヤック・デ────」
「ハイそこまで。話を続けますよ」
 何かしら危機を感じたらしい管理組合員が先を促すと、トーマはコホンと咳払いしてホワイトボードを叩いた。ちなみにホワイトボードには「作戦会議」としか書かれていなかったりする。
「第二段階は『猫の鈴』を埋め込むっス。
 再び絨毯爆撃で水魔の位置を確認。見つけ次第水魔の可聴外に設定したスピーカー付銃弾を叩き込むっスよ」
 彼女の説明と同時に他の管理組合員がいくつかの銃弾や銛をトーマの前に並べる。
「これは魔力駆動式と熱駆動式、それから水流駆動式の三式用意したっス。仮に水魔がドラゴンとするならば、相手の魔力を少し吸い上げる魔力駆動式や活動エネルギーたる体温での熱駆動が可能っス。
 小型の水車を配置して、ボディの表面を行く水流で発電する水流駆動式は銛のようなヤツに組み込んだっス」
 良くもまぁ半日でここまで作り上げたものである。
 とはいえ、設計図と材料があれば一瞬でその形にしてしまう魔法使いも居るし、電子基板関係は結構市場に置いてあったりする。魔術回路についてもインクを魔術触媒で作った印刷機で量産できてしまう。なお、これを見た中世文化圏の魔術師が自分の人生に措ける苦労を振り返って落ち込んだのはまた別の話である。
「さぁ、水魔に釣り針を引っ掛けるっスよ!」

 クロスロードのそれほど長くない歴史の中で、多くの犠牲者を飲み込み続けた正体不明の怪物に、ついに反撃の刃が突きつけられようとしていた。

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 次回ラストの予定です。
 果たして猫の鈴はうまくつくのでしょうか。
 リアクションよろしゅうおねがいします。
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