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【inv36】『衛星都市拡大作戦』
『衛星都市拡張作戦
(2015/08/06)

「……製作したのは大迷宮都市。だから大したことはわからなかった」
 大迷宮都市はこの世界に作られた三つの都市のうち、唯一管理組合の管轄下にない都市だ。野心の高い商人が集い、大迷宮と言う場所と自分たちの持ちよったノウハウを巧みに利用して独自の体制を築いた。
しかしたった三つしかない都市のひとつで、様々な施設が充実しているこの都市に訪れる者は少ない。いや、減ったと言うべきか。元々来訪者が訪れる主目的であった大迷宮。その攻略は6階層以降進展が無い状態が長く続いている。これは第五階層が異様に広く、また通路が複雑かつたまに移動することから、安定して第六階層に達する事が難しいという現状に起因する。当然5階層より上の宝は荒らされつくされており、大迷宮に拘る極わずかな来訪者以外は大迷宮都市から遠ざかった。
 結果大迷宮都市が廃れたかというとそんな事は無い。元々あった空きスペースを農工業実験区画に変え、産業の起点として機能し始めているのだ。
 注目すべきは太陽光を地下に送り込むシステムを構築し、水の浄化、再利用施設を設置したことで小麦の地下プラントをほぼ完成状態にまで持ちこんでいる。クロスロード周辺での農作物の育成が難航している今、目を見張る成果である。
 また、地下二階層の完全制圧作業も進められており、さらに広がる広大な地下のスペースを用いた作付けの増加を目指しているという。
浄化施設を作ったとはいえ、最大の弱点は水の確保だが、平時であれば数時間に1回やってくる武装列車からの給水で充分賄えているし、『森』で利用されている『水風船』なる植物を利用した予備タンクが相当数準備されているため、一年くらいであれば篭城可能なところまで来ていると推測する者も居る。
 近い将来ターミナルでの食糧自給率を跳ね上げるかもしれないのがこの大迷宮都市の次の姿と言われていた。
 一方で工業区も設立されており、数多の兵器が量産できる体制を構築していると言う。これも広いスペースがあるからこそだ。
「あの兵器は大迷宮都市製兵器の初お披露目ってことか」
「少なくとも探索者の情報網だとこれ以上はわからない」
「……直接乗り込んだところで金の成る木を堂々とは明かさんだろうしな」
 ザザの結論にアインが頷きを返す。
「……後は、専門家に見て貰うくらいだけど」
 専門家と言って思い浮かぶのは大図書館地下の連中か、トーマといったところか。
「いや、魔術的な仕組みであるなら、違うか?」
「……でも、導入したのは管理組合。あそこに魔術であろうと科学であろうと専門家が居ないと思えない」
「つまり、管理組合は仕様を飲んだ上で設置している、か」
 ザザは瞑目して二人が持ちよった情報を整理する。

 この大砲は周囲を漂う魂を喰らい、エネルギーに変換して砲撃する。
 そも、魂とは何か。
 この定義は未だ議論が尽きない。というのも神々でさえも「魂とはそういうものだ」という感じのテンプレ作業で作り上げているらしい。
 重要な点は、この世界に措いて既にアンデッドとして存在を確立した者が来訪する以外に「魂」の状態で存在する事は不可能ということ。死者の魂は扉に引き寄せられ、元の世界へと強制送還されるのである。故にこの世界ではあらゆる死者蘇生が成功した例は無い。予め死ぬ事で転生を果たす術式を用意していても、結実するのは元の世界でのことらしい。例外は仮死状態からの蘇生だが、これは単に魂が離れる条件を満たす前に蘇生しただけとも言える。

「魂を失うってのは、つまりどういう事になるんだ?」
「転生ができないということ。ただ、元々転生っていうのはイレギュラーな手段だから、事実上何も変わらないとも言える」
 例外的な世界もあるが、原則『前世の記憶』を以て再誕することはない。故に客観的には何も変わらない。これは神々の言うテンプレ作業によって生み出される魂の基本仕様だそうだ。
「だからって良いとできる話じゃないだろうよ」
「それはそう。ただ、主目的は怪物の魂を損耗させることにあるみたい」
「……というと?」
「たった数年で、大襲撃は何度も起きてる。そして百万を超える怪物がどこからともなく現れてる」
「……そいつは……」
 数多の世界に繋がっているとはいえ、怪物の存在しない世界も少なくない。来訪者の数を考えるならば、数度にわたる大襲撃の結果、数多の世界からどれだけの怪物が姿を消しているのか。

「怪物は毎度扉から出て来ているのではない。怪物の魂は『壊れた塔』に束縛されていて、復活を果たしているって説を基準に考えたらしい」

 『壊れた塔』この世界のもうひとつの出入り口であり、ただこの世界を崩しさるしか能の無い怪物を生み出すだけの魔の口が南にあるという。
 そこから少なからず怪物が吐き出されているのは間違いない。しかしそれだけでは数が多すぎる。その理由は何かというところから議論は始まり、来訪者の魂が強制的にこの世界から元の世界に戻されるシステム。言い換えれば『死者の魂を集めるシステム』に着目した。
 クロスロードの塔は死者を元の世界へ送り返す。しかし壊れた塔は怪物の魂を元に復活させているのではないか?
 もしそうであるならば恐ろしい未来が予測される。
 扉は怪物を吐きだし続け、死んだ怪物と共に次の大襲撃に襲ってくる。 
 それは輪を駆けるように数を増し、やがてクロスロードを踏みつぶすだろう、と。
「あくまで怪物の魂を標的にしたシステム、か」
 ならば解法は?
 怪物の魂を塔に帰さなければいい。
「でも取捨選択ができるとも思えない。あの砲台に常に近いのは私達の方」
 その説が正しく、砲台のシステムが狙い通りに働くのならば、この世界最大の災厄である大襲撃を抑え込むことが可能になるかもしれない。
「……だが、あれの近くて戦いたいと思うやつはいまい」
「だから秘密にしてるんだと思う。……私はこういう身の上だから気付けたけど、多分殆どの人は不気味と思ってもそこから先に追及が続かない。
 今の結論だって管理組合に否定されたら例え事実でも嘘になると思う」
 管理組合の最大の目的はクロスロードの正常な運営だ。そして最大の敵はやはり大襲撃である。
「……現時点で大襲撃はほぼ抑えきってると言えるだろう。それでも必要な物なのか?」
「必要なんだと思う」
 アインは迷うことなく言った。
「あれが本格的に有効なら、アレを用意するだけで拠点をもっと増やせる。その結果、大襲撃が起こらなくなるならなおさら」
 試す価値は間違いなくある。将来の憂いを断てる手段を見逃すわけにはいかない。
「考えれば考えるほどに当たり前の事ではあるんだがな」
「気持ち悪い?」
 アインの余り動かない表情を見やって、ザザは口を噤む。
 彼女もまた、「正しき生命」「正しき魂のありかた」から逸脱した生まれだ。生み出すと消し去るの差はあれど、異常という点では同じ。
「失われることを厭うのは間違いか?」
「ザザさんらしくない。けど、今のザザさんらしい」
 随分な言い回しにザザは苦笑を洩らし、立ち上がる。
「さて、どうするかね」
「……したいようにして良いと思う。結局みんなが受け入れないならこれは将来的に禍根になる」
「そうだな。猫あたりが悪用したら面倒だ。もっとも、その辺りを抜かるとも思えんが」
 言ってどうにかなるとは限らない。言わずとも良い方向に行くかもしれない。
 それでも二人は、己の信念に従って動き始めるのだった

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 お久しぶりになってしまいました。
 なんとか出張もおわり、更新ペースを戻せたらなと思います。
 さて、今回ここで区切っても良いのですが、この砲台についてどういうアクションを取るかだけは確認しておきたいです。
 触れまわるもよし、沈黙を保つもよしです。
 その結果はのちのイベントに反映することになります。

 今回は報酬は基本通り。
 経験値に+5点差し上げます。
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ADMIN