残った者達はその絶望的な光景に総撤収を決断します。
扉を壊され、帰る場所を失った者には別の世界の者が手を差し伸べました。
それでも全員が逃げれば、その背中を爪や牙が襲う事は容易に想像が出来ます。
一人でも多く逃がすため、殿を務める決意をした者達は武器を構え、一分一秒でも時間を延ばす事だけを命題に扉へ背を向けました。死を覚悟し《扉の園》の外周に作られた防衛ラインに散っていったのです。
特に永遠信教軍の司令官は「この地に残された事を主からの命題である」と鼓舞し、殿に立ったと言います。
そんな中、皮肉にも壊乱のきっかけとなったガイアスとヴェールゴンド軍の撤収が一番遅れていました。彼らはこの世界に余りにも人員を持ち込みすぎていたのです。
扉の大きさは変わりません。撤退を決めても七日目の朝の時点で未だその一割も収容できていなかったのです。
死が迫った中で順番待ちという精神的苦痛は、真っ当な理性を削り、やがて暴動にまで発展します。
この混乱で両軍で二万もの命が失われたと言われています。
別の世界に逃げ込もうとする者も現れ、《扉の園》は『怪物』の来襲を待たずして絶望の空間になりつつあったのです。
広がる絶望。そしてにじり寄る明確な死。
そんな世界の終わりの光景を打ち砕く者が現れます。
東に太陽の移し身のような炎の玉が現れ、地面を抉るように薙ぎ払いました。
西に翼を持った白き鎧の騎士が現れ、その手にある錫杖は光と闇で全てを飲み込みました。
南に見上げるほどの金属の塊が現れ、青白い光と炸裂する弾丸で怪物達を焼き尽くしました。
北に巨大な魔法陣が展開し、世界の終わりの光景が怪物達を消し去っていきました。
それは余りにも圧倒的な力だったと言います。思いもしなかった援軍に沸き立った兵団は、武器を手に最後の力を振り絞って怪物達を打ち倒し始めます。
怪物達の死体で小山が出来たとも言われる七日目の夕暮れ。
突如怪物達の動きが止まり、まるで波が引くように怪物達は去って行きました。
こうして余りにも多すぎる死者を出した地獄の七日間は幕を閉じたのです。